ゲージュツ的しつけ

フェレットのしつけが書いたゲージツ的なしつけ術の数々。メール→fererere25@gmail.com

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

キュビズム

まっすぐに伸びる一本道があった。周囲は広大な草原で、平原の中にポツポツと、倒れこむ人のような木が生えている。視界の最も遠い場所で地平線が広がっていた。空気は今もカラカラに乾燥している。足元に続く道の上だけ草が刈り取られて肌色の地面がまっす…

おやすみのまえに

一滴の水が今ちょうど水面に落ちようとしている。一瞬のうちに水面に触れた水は水面との間にお互いの引力を発生させて一瞬だけ水柱を作るだろう。そしてぽちゃんと水滴は沈んでいき、いくつかの水滴を産む。その後で水面はなだらかに流れていく。 小学生の男…

エアコンの葬儀

エアコンは人生の真反対に存在している。動かないし、便利だし、呼びかけには応えてくれる。猫のような奔放さにお金を払うこの国の富裕層とはまた違った、完全で厳格なかたちを持っている。エアコンの頭脳は正確で、ミスをしない。その分だけ、遊びや柔軟性…

クリスマス・コンプレックス

Ⅰ. 街角に訪れるクリスマスの波を上手にかいぐぐって、時には乗りこなして、一人で歩き続けた。冬の夕暮れは誰かの誕生日を祝ってるわけじゃない。ただそこにあるだけの夕陽や、川や、街。ぼくはただここにいるだけだ。季節の中から逃げ出した遠くの船を追い…

思考の断片

これはいくつかの思考の断片 1. 透き通る湖畔の向こうがかすかに明るい。湖の周りを森が囲んでいる。木々の上には白い明かりと、透き通る紺色の夜が広がっている。透き通る空気の中で星は数え切れないほど輝いている。雲がかかって星座を隠した。吐く息が白…

どうぶつ的なけんちく

塀の上で、何匹もの猫が鳴いている。顔を上げて、まるで遠吠えでもするように。野良猫というのは大体近づくと逃げるのだが彼らは逃げようともしない。俺の両側に大きなコンクリートの塀が立っている。何十匹もの猫が遠吠えを続けている。空には月が浮かんで…

指輪と放浪

財産も蔵書も何もかもなくしてようやく自由の身だ。分厚いコートだけが俺の身を守ってくれるしどこにでもいける気がした。浅い眠りを起こすクラクションの音色に目眩がする。めまいがするほど明け方の街は明るい。今日は新宿の方へ行こうか。 定期券はあと一…

太陽が落ちるまで

うまく行くべきところはうまく行っている。岸を飛び立とうとしている鳥は上手に助走をつけたし、棒高跳びの選手はテレビの中で世界記録を打ち立てた。僕だって、寝たり食べたりは上手だ。履歴書の趣味・特技の欄に書くことがなくたって、できることはたくさ…

宇宙、船、どうぶつ、

どうしようもないほどに夕暮れだ。赤い、赤い。雲が焼き切れてしまったように千切れて浮かんでいる。地震の前兆のような切れ切れの雲、動物たちが騒ぐ様子はない。 とおくとおくの町の方から汽笛の音が聞こえた。少年はきっと宇宙の船の音だと思ったから、丘…

ガールとポップ

17. 誰にも会いたくないから、知らない誰かの家を渡り歩いた。インターネットで探せばいくらでも出てくる。いくらかの代償は支払う。それでもどこでもない所に居られる限りは、私は外にいた。私にとっての家なんてどこにもなかったし、それが心地よかった。 …

さかな的な船の使い方

<魚の住処と船> <ランプ職人的存在論> <魚の住処と船> 結合してる水のひと粒ひと粒が肌にぶつかるのを感じる。塩分濃度の高い海の、揺れの中でひたすら日光に当たっている。海面で遮蔽された光はゆらゆらと不安定に揺れて、いつだか冷たい海で見た幻影にそっ…

並行する夢

夜に慣れた目は、海の紺色の流れを見ることができた。波の上に無数の光の粒がきらめいて、それは星空のようだった。星は一つの粒だった。それはあの時君がつけてた星型のイヤリングみたいな形じゃない。世界はどこまでも細かい粒に分解できた。だから僕は君…

全ての女々しい僕らのために

誰かに迎えにきてほしい。そう思う自分を恥じている。だけど、本気で思ってる。お姫様になれないって知ったのはいつだっただろうか。かわいくなりたいって言うのをやめたのはいつだっただろうか。悲しいくらいに僕は男だった。 アーバンギャルドが好きだ。パ…

テーマパーク

やっぱり黒人は体が大きいな。エナメルの、電灯を反射して濡れたように光るスニーカーがよく似合う。エナメルのスニーカーをナチュラルに履ける人間というのは、やっぱりどこか日本的でない部分があるのだろう。 そういえば、彼女もそんなエナメルの靴を履い…

はじける

1.クラブ 現実は緑色のヘドロのように人間を包んで離さない。赤ちゃんのように物を見ちゃダメよ、とレイ子が言った。僕は目を閉じて見えるものを追いかけようとしている。ラリったみたいな目をして、クラブの中でウロウロしている。夜の街の、冷たく狭い路地…

死体を見にいく

Ⅰ. 外に行かないと美しいものを見ることができないから、心臓が落ち着いたら出かけようと思った。澄んだ空気とか、星とか、建設現場に置き去りにされた灰色の資材とか、冬は美しいものが多い。 仰向けに天井を見て、フーっと息を吐き出した。フーっと声が出…

こえだけきこえる

<最初に見えた> 深い、緑の洞穴の中からはいろんなものが見えた。ベッドや、ガチャガチャした色のおもちゃ、透明なアクリル板、水色のビー玉、溶けかけた氷の球体、抽象画。どれにも全て、劣等感という名前が付いている。 <関係妄想> 病室の中からは何十人も…

教室と天国

<教室、神さま、恋愛> 子供は全てを知っている。大人の質問には絶対的な「答え」があることも、「答え」を言えば褒められることも、そこから逸れると怒られることも。そして、自分の持っている根本的な欲求ーー遊びたいとか、人を好きになるとか、自由な席に…

母を盗まれる

人との関わり方がわからない。 高校生の時、チェコからの留学生がホームステイで家にやってきたときの話だ。 俺と彼とはあんまりうまくやれなかった。俺は名前を間違えたし、彼は俺を「ゲイ・ボーイ」と呼んだ。まあそれは仕方のないことだ。人は合う、合わ…

幽霊の目線

Ⅰ.浮遊する 眼下には都市が広がっている。ビルの巨大な看板が光って、新作映画の宣伝をしている。上から見下ろす都市は明るすぎた。地上の人間たちからは星は見えないだろうと思った。 Ⅱ. 僕は空のとても高いところにいる。空と雲の隙間から都市を見ている。…

12月の意味

Ⅰ.無意味さと空と12月 12月の雨に街は真っ白だった。豪雨は街を白く染め上げているが、雪のように静かでもないし霧のように神聖でもない。ただ、強い雨だ。雨は生活を破壊する。雨は秩序を破壊しない。雨は権力を浮き彫りにする。雨は海へ帰っていく。雨は無…

8月の鳥

踏み切りを渡った。暑い8月だった。遥かに開ける視界の先では海が陽炎に揺れていた。空は青。海との境目がわからないくらいの晴れ。大きな坂が目の前に広がっていて、道路の横には等間隔に建物が並んでいる。砂浜は見えない。晴れだ、青だ。夏だ。夏は嫌いだ…