ゲージュツ的しつけ

フェレットのしつけが書いたゲージツ的なしつけ術の数々。メール→fererere25@gmail.com

幽霊の目線

 Ⅰ.浮遊する

眼下には都市が広がっている。ビルの巨大な看板が光って、新作映画の宣伝をしている。上から見下ろす都市は明るすぎた。地上の人間たちからは星は見えないだろうと思った。

 

Ⅱ.

 僕は空のとても高いところにいる。空と雲の隙間から都市を見ている。都市は灰色だ。電灯が多いから明るいけれどその分影も多い。人間たちは影にすっぽり隠れて見えない。上空では月が大きく輝いている。黄色というより、金色の光だ。星は見えない。

 

Ⅲ.

  僕は星が見たかったから、雲の上へ行ってみることにした。雲の上へ行こうと思った瞬間に僕の真下に雲があった。雲の隙間から街灯の光が間接照明のように漏れ出ている。星は大きく、輝いて見える。月は金色の光をたたえている。僕は光の中にいた。

 

Ⅳ.どこにでも行ける

 僕は死んだのか?透明な体で空を飛んでいる。死を思い出した瞬間に真っ暗な場所へ飛んだ。そこは完全な暗闇だったが、怖くなかった。そういうルールなのだ。イメージの通りに移動できる。それも瞬間的に。体の力は一切感じなかった。僕は浮遊していた。それもなんらかの力による浮遊ではない。僕は存在していた。全ての力から自由だった。物理的に存在していなかった。僕は目を閉じ思考しようとした。思考の中に僕は入っていた。

 

Ⅴ.記憶

 それは巨大な宮廷の広間だった。天井が高く、壁は金色と青に輝いて様々な模様が施されている。絨毯は赤い。全てが華やかだったし、全てが押し付けがましくなかった。

 その広間に僕は一人でいる。僕の横に巨大な真四角の石が落ちてくる。僕は下に落ちていった。これは僕の記憶だ。200万年の人間の魂を繰り返すのだ。思考は全て本当だし、本当のことは全て思考になる。僕は目を開けた。

 

Ⅵ.きらめく人

 眼下には都市が広がっていた。空と雲の間。ネオンの色が変わらず都市を飾っている。僕は地面を見た。ズームしていくように地面がだんだんと近づいてきて、気づけば僕は地上を浮遊していた。空は遠い。さっきまで大きかった月は少し輝きを失ったようだった。その代わりに街灯や店の赤りがきらめいている。都市はきらめきの中にあったし、人々はきらめきの中にいた。

 

Ⅶ.すり抜ける

 恋人たち、若者、年寄り、みんながそれぞれの方向に歩いている。そしてみんなが僕を通り抜けていく。僕の体は触れない。僕は幽霊だ。浮遊できるし地面の下にも行ける。心はあった。とても透明だ。

 

Ⅷ.幽霊と存在

 僕は気づけば雲の上にいた。そして同時に地上にいた。闇の中にも、宮廷の中にもいた。同時に存在していたし、どこにも存在していなかった。意識は広がっていく。都市にいながらアマゾンで鹿を見た。世界は戦いがたくさん起こっている。その全てが僕には関係がなかった。僕は全てを見ることができる。僕は全てに偏在する。そして僕はどこにも存在しない。土地に縛られないのが幽霊なのだ。もう僕はどこにも触れない。けれど一つの地面の下だけが、やけに心地よく感じた。僕はそこで死んだのだろうか?僕はそこに埋葬されたのだろうか?誰かの記憶が反応している。僕の中で200万年の人間が動いている。確かに僕は人間だった。僕は幽霊だ。もう誰にも触れない。どこにでも存在しているし、どこにも存在しない。