ゲージュツ的しつけ

フェレットのしつけが書いたゲージツ的なしつけ術の数々。メール→fererere25@gmail.com

好き

変な味

路地裏では雑居ビルの室外機がいっせいに動いているために、ゴウゴウとすごい音がする。彼はタバコを咥えながら、室外機の吐き出すなま暖かい空気のなかにいた。ここの空気のほうがタバコの煙より健康に悪そうだ。 彼は朝方が好きだった。深夜ではない。夜が…

人生オシャカサマ

不器用なのは罪かもしれないけれど、不器用にしか生きられない人もいる。わたしみたいにね。怒っている女の子につい「怒ってるの...?」なんて伏し目がちに聞いて、それがきっかけで(それ以前にも彼女のなかには色々な感情があったのだろうが)ラインの返信が…

夏がふたつ

「わかって欲しいって気持ちが強くて、それであのこのことが嫌いになって」 おれはタコのジョーを殴りながら聞いていた。リビングには壊れた自転車と、植木鉢と、電灯があって、電灯は灯りがつかないまま上空に放置されていたので部屋は真っ暗ななか、女が喋…

分けて、決めて、配置することーー永井 希 著『積読こそ完全な読書術である』を読んで。

www.google.co.jp 永田希著『積読こそ完全な読書術である』を読んだ。 僕は一昨日、これを読みながら寝ずに本の配置をしなおした。 とても面白かった。簡単に言えば、現代社会の情報過多への抵抗の仕方について書かれた本だ。 現代人は、あらゆるメディアで…

最高の”洋楽ロック”とごく個人的な思い出

はじめに さいこうの曲たち はじめに ぼくの音楽との出会いはおそらく洋楽からだと思う。 父親は洋楽が好きな人間だった。 具体的にいうと、ビートルズとクイーンとビリー・ジョエル。 歌詞の意味がわかったことはほとんど無い。 ぼくが意味よりテンションや…

最高の”邦楽ロック”(ぼくが知るかぎり)

はじめに 最高の曲たち はじめに 今まで聴いた中で最高の音楽を挙げてみました。 ここに集めた曲たちは全てぼくの人生において大切な曲です。 兄が部屋でかけていた曲、父に貰ったipodに入っていた曲、友達に勧められた曲、本で読んで聞いてみた曲、そんなふ…

会話 人称の移動 融合(カメラとか因数分解とかによせての)

鳥の羽がビルの間をななめに傾かせて通っていくのを見た。ふっくらとした体の年老いた鳩がぼくの足下で草を突っついている。何の気なしに言葉をつぶやく君の声をぼくは聞いた。正確には音を聞いた。音に意味が伴わなければ声じゃない気がする。ぼくは音の方…

煙は

便所からタバコの煙が灰色に上がって、チェーン店の大衆酒場の光に照らされて、また街灯の光に照らされて霧のように空へ飛んでいくのを僕はじっと見ていた。 もう店内では吸えない。 タバコは彼のものじゃなく、僕のものでもない。僕はタバコを吸わない。も…

生きてるみたいに

文庫本をめくる左手の抱える紙の束が薄くなっていくにつれて僕は興奮していった。自分の喜びが目的の達成ーーしかも、物理的な目的、ただただ読み終えるというその一点のみに集中している事実が、なんとも悲しい。 きっとこの文章の束を読んで何か得たり、何…

ハグれモノ行進曲。

日記を書いてみることにした。日記は毎日続いているし、毎日続きを記録することが長編を書く練習になるっていう文章を読んで、それはすごいと納得したから。 2020 3/29 曇りのち雪のち雨。昨日は17度くらいあった気温が今日は4度。雪が降った。明日は13度に…

奇妙な記憶と、小学生による昔についての考察ーーグレイス・ペイリー『最後の瞬間のすごく大きな変化』を読んで。

グレイス・ペイリーというアメリカの作家の小説を読んだ。訳者は村上春樹だった。『最後の瞬間のすごく大きな変化』という短編集だ。グレイス・ペイリーは短編集を三冊出版して、たぶん子供に世話を焼いたり、友だちとコーヒーを飲んだり図書館に行ったりし…

エアコンの葬儀

エアコンは人生の真反対に存在している。動かないし、便利だし、呼びかけには応えてくれる。猫のような奔放さにお金を払うこの国の富裕層とはまた違った、完全で厳格なかたちを持っている。エアコンの頭脳は正確で、ミスをしない。その分だけ、遊びや柔軟性…

並行する夢

夜に慣れた目は、海の紺色の流れを見ることができた。波の上に無数の光の粒がきらめいて、それは星空のようだった。星は一つの粒だった。それはあの時君がつけてた星型のイヤリングみたいな形じゃない。世界はどこまでも細かい粒に分解できた。だから僕は君…

テーマパーク

やっぱり黒人は体が大きいな。エナメルの、電灯を反射して濡れたように光るスニーカーがよく似合う。エナメルのスニーカーをナチュラルに履ける人間というのは、やっぱりどこか日本的でない部分があるのだろう。 そういえば、彼女もそんなエナメルの靴を履い…

はじける

1.クラブ 現実は緑色のヘドロのように人間を包んで離さない。赤ちゃんのように物を見ちゃダメよ、とレイ子が言った。僕は目を閉じて見えるものを追いかけようとしている。ラリったみたいな目をして、クラブの中でウロウロしている。夜の街の、冷たく狭い路地…

8月の鳥

踏み切りを渡った。暑い8月だった。遥かに開ける視界の先では海が陽炎に揺れていた。空は青。海との境目がわからないくらいの晴れ。大きな坂が目の前に広がっていて、道路の横には等間隔に建物が並んでいる。砂浜は見えない。晴れだ、青だ。夏だ。夏は嫌いだ…

砂浜とドアと死体

Ⅰ. Ⅱ. Ⅲ. Ⅳ. Ⅴ. Ⅵ. Ⅶ. Ⅷ. Ⅸ. Ⅰ. ドアが開いたり、飛沫が起こったりする。砂浜に落ちた影の向こうの、どこにも繋がらないドア。その向こうで海は波を立てている。白い波のかけらが砂にぶつかっては空気中に飛び散っていく。砂は白い。波も白い。 Ⅱ. 砂浜にド…

アメーバの独白

Ⅰ.アメーバ Ⅱ.(分裂する) Ⅲ.生命について Ⅳ. Ⅴ.個体について Ⅵ.アメーバの一生 Ⅶ.宇宙と円環 Ⅷ.生命についてⅱ Ⅸ.鏡 Ⅹ.社会へのアメーバ的考え Ⅺ.アメーバと複製芸術 Ⅰ.アメーバ 私は原因である。私は結果である。大体のことは繋がっている。 ウィスキー、音…

産まれる前

水がゆらめいている。淡い光を発しながら、右に左に揺れている。 光は水の中で丸い形を作って、周囲の闇を照らしていた。丸い光が水の揺れに合わせてゆらゆらしているからそれはまるで煙のように見えた。 水の中の光は月だ。巨大な、でこぼこの鉱石。宝石よ…