ゲージュツ的しつけ

フェレットのしつけが書いたゲージツ的なしつけ術の数々。メール→fererere25@gmail.com

現代的な筆の取り方のススメ

 無理やりからだを起こして、午前10時のぼくはデカダンスにもなれないままでいる。お腹がすくけど、何か書けそうな気がして、現代的に筆をとりました。ぼくはとても現代的だから、スマホでこれを書いてる。タバコの匂いもドラッグもトリップもない午前の世界は健康で健全すぎて不健康だから、死んだひとの声について書くことにする。

 もういない人の声がぼくに文章を書かせてくれてる。実はぼくは文章を書いてるんじゃなくて、もういない人の声を聞いて文字起こししてるだけなんだ。いま書いてるこれはぼくの中のぼく、もういない、一人の男性の声。五歳の自分が遺していった声に従って書いてる。

 いない人の声が聞こえるなんて言うと、サブカルクソ野郎からスピリチュアルクソ野郎に転向したのかと思われるかもしれないけど、本当なんだ。怪しいでしょ。はじめて読んでくれた人ははじめまして。びっくりしないで、これはイタコの真似事です、いや俺がイタコです。文章を書く人はみんなイタコなんです。実は、演技するひとも音楽を演奏するひともみんなイタコなんです。本当のこと言ったのが知られるとヒンシュクを買うから、みんなには内緒だよ。

 冗談はこのくらいにしよう。

 たぶん、頭のなかに声が聞こえるって経験をしたことがある人は沢山いると思う。ぼくは頭のなかに常に音楽が流れていて、それをなかなか止めることができないんだけど、そういう経験あるでしょ。何かひとつの音やフレーズが頭にこびりついて離れないこと。こういうのをイヤーワームと言うらしくて、脳の聴覚を司る部分が勝手にうごいているらしい。 

 脳には認識するクセとか型みたいなのがあるって何かで読んだんだけど、ぼくはその中の「聴覚言語タイプ」みたいだ。「聴覚言語タイプ」はその名のとおり、聴覚と言語でものごとを認識するタイプ。だから言葉を書きつつ、読みつつ、音楽をやってる。

  だからかはわからないけど、ぼくの頭のなかではすべての文章が音声になる。黙ってじーっと文章を読んでるときも、実は頭のなかで超高速で音読をしている。

 その、文章を再生する声。ここにぼくはいろんな人の声を当てはめて読んでる。

 アイドルの声やラジオのパーソナリティの声、友達の声やむかしの自分の声や、おばあちゃんの声、もう会えないひとや通り過ぎて疎遠になってしまった人の声、イタリア人の声、インド人の声、これらはもうこの世に存在しない声、つまり死者たちの声です。読書によってぼくの頭のなかにインプットされたことばは、常にこうした死者たちの声と一緒に保存されていて、声を再生すると、むかし読んだ文章の断片が自分の文章として再構成されていくのです。

 ここまではなんとなくわかるかな、さらに、いちばん大事なのは、声それぞれに固有のボキャブラリーや文体や表現があるということ。インプットした物のエッセンスを組み合わせて書いてるというだけのことです。それをぼくは音声×ボキャブラリー×文体でやってる。

 退屈だった授業中に教室で回ってた手紙にぼくは何にも共感できなかったけど、それを楽しそうに受け取ってる人たちの没個性と、それから晴れたグラウンド美しい感じだけ覚えていて、先生はわたしに勉強を教えてくれるだけの存在だった、なんて言ってしまう自分の没個性だってまたグロテスクなくらい田舎の高校にピッタリだよ。

 とりあえずコンビニ弁当食べてパスタ茹でてわたし生活をくりかえしてるだけ、くりかえしてるだけの毎日で生きていていいのかな、どこにも居場所がない、なんてひとことで言ってしまえばおしまいで、どこにもいく気がないだけだっていわれるけどそんな暴力的な二元論じゃない世界を求めてる。愛してる音楽や愛してる本だけあればいい、そんなの嘘だ。愛の対象だって変わっていくわけで、わたしはすこしずつ変わっていくのにあの日変わらないでって言われてああ、退屈な授業中に手紙を回してたもんね、とか意地悪なこと考えちゃうくらいにみにくいアヒルの子であるところのぼくと、なるなら白鳥じゃなくてお姫様になりたい青色の深夜の空を見てぴーんと張り詰めた空気を感じる夜が好きじゃない人なんていないんじゃないかと思う。

 

 ぼくがイタコであることと、脳にどういう機能があるらしいとかいうあやふやな知識との間に関係があるわけではないんだろうけど、脳ってことばを持ち出すと説明がついたような気がするから、言ってしまいました。現代人の脳への信頼はすさまじいので、脳と言えばひとを簡単に騙せる気がします。ひとを騙す予定があるひとや、使いやすい根拠を探してるひとは是非、脳を使ってみて。そうじゃないひとは、気をつけて騙されないようにしよう。ヤクザな因果関係は世界にたくさん転がってるから。わたしは過去に不幸だったから今不幸なんだとか、ほんとうはどこまで正しいかわかんないんだけど、正しくないことを言うのが物語で、それが固有の声だから、たくさん正しくないことをいってキラキラした世界にしていこうと思うよ。正しくなくたっていいよ。言葉にすれば、そのひとつひとつが死者の声になって、また新しいものが世界に生まれるから。