ゲージュツ的しつけ

フェレットのしつけが書いたゲージツ的なしつけ術の数々。メール→fererere25@gmail.com

夏がふたつ

 「わかって欲しいって気持ちが強くて、それであのこのことが嫌いになって」

 おれはタコのジョーを殴りながら聞いていた。リビングには壊れた自転車と、植木鉢と、電灯があって、電灯は灯りがつかないまま上空に放置されていたので部屋は真っ暗ななか、女が喋っている。

 「あの子は考えるのが嫌いな子で、一瞬たりとも考えるのに耐えられないみたいなのね」

 冷たい雨が外に降っていたが、窓も玄関も閉め切っているから関係ないことだ。俺の腕に押さえつけられてジョーは息も絶え絶えの様子でヌメヌメしている。奴のスミで俺の腕は真っ黒だけど、俺の腕はリズミカルに殴り続けるのをやめない。ねえ、どうして、そんなところにいるの?と、小さなころ言われた言葉が頭に反響する。

 頭のなかで俺は公園の石造りの滑り台の上にいて、空からは太陽が少し照っていて、雲が通り過ぎるような夏の午後の暑い盛りだった。オレンジ色で描かれそうなほどエネルギーに満ちた街中はゆらゆらと陽炎のなかで揺れまくっていて、俺は汗をだらだら書きながらまとわりついてくる水蒸気の匂いを嗅いでいた。水蒸気は少しだけ酸っぱい匂いがした。その女の子の脇の匂いはもう出始めていたころだったからかもしれない。光化学スモッグかもしれない。

 「光化学スモッグがよく出る街だったなぁ」と言うと、女は突然話すのをやめて体育座りになってしまったので、俺はヌメヌメ黒く光る腕をジョーに叩きつけながら滑り台のうえにすぐに戻ることができる。

 まだ小さな体で過ごしていた俺は滑り台の頂上で倒れていた。空に目を向けて、頭はもうなにも考えられないほどにグラグラして、喉は乾いた。いま思えば熱中症だったのだと思う。

 「ねえ、どうしてそんなところにいるの?」

 「おれもう家に帰りたいんだ」

 「道路の向こうを見てごらんよ、ゆらゆらしてて帰れるわけないよ」

 陽炎、という言葉を知らない俺たちは道路の向こうでアスファルトが揺れまくってるのを見て、帰れないことを悟った。悟ったからどんなに暑くたってぶっ倒れていたんだ。

 公園にはいくつもの遊具と、数人の子供がいて、それは非常に広いように思えた。シーソーの片側に男が乗っていて、彼が乗っている方向にシーソーは倒れっぱなしだったのが見えた。俺はどうしてここにいるのか考えようとしたけど、頭がぼんやり溶けていたので言葉にはならなかったがそれは幸せなことだった。その日は夕立ちが降って陽炎は消えて、俺は家に帰ろうと思えた。生温かい雨が降る公園に取り残されたのは俺と、自転車だったが、そいつは壊れていた。その自転車が、いま真っ暗な部屋の中にある壊れた自転車の由来かと言われると、もうわからないほどに時間が経ってしまった。