ゲージュツ的しつけ

フェレットのしつけが書いたゲージツ的なしつけ術の数々。メール→fererere25@gmail.com

目を閉じて見えたものの描写

 丸い噴火口のような天井から煙を吐き出し続けている、大きなコンクリートの塊が空間の中にぽっかりと浮かんでいる。

 塔だ。大きな塔。海辺の、爽やかな森の中にいる。光の柱のようにも見えたし、バベルの塔にも見える。神話的な性質備えている一つの塔。

 その塔はツボのような形をしている。jコップのようにも見えた。ずんぐりとした丸い底部から円柱の体が伸びている。上部は大きな空洞で、淵のところから何かが漏れ出してきそうな気配を漂わせていた。それは原子力発電所だった。

 僕は原子力発電所を遠くから見ながら、その周りに広がる海を見ていた。海の青と空の青に挟まれた人工の白さが僕の目にやけに異物として映っている。

 カモメが飛んでいた。発電所の手前には森があって、奥には砂浜があった。リゾートなどではない、荒れた砂浜。砂浜には人がいない。いなくなって久しい。遠くへ行ってしまったのだ。砂浜としての役割を持つ砂浜のところへ。その海は海として扱われていなかった。発電所の周りは全てが発電所的に考えられるようになっていく。

 発電所的な空。年間降雨計画に沿って安定した水分の供給ラインを探っているように見えた。科学的なカモメの飛ばし方、とかアイスクリームと雲の相似性とか、そういう論文でも書きそうな雰囲気だ。作り物のように空は青かった。

 僕が立っているのは高台だった。遠くがよく見渡せる高台。モーゼが十戒を授かる時に登ったような、というのは多分言い過ぎだけど、十分な高台だった。地面は荒れていて砂はザラザラと赤茶色で、風が砂ぼこりを立てた。その度にチリチリと乾いた砂が足に当たる。乾燥していた。地肌はひび割れて一本二本の少ない草の群れが点々と根を張っている。まるで崖のように切り立っていて、ここが頂上なんだってわかった。崖の下には森が広がっている。海に続く森なのにヤシの木のようなものは何もなく、ファンタジー小説に出てきそうなくらい茂っていて、暗くて、生命に富んでいる森。真緑色の海のように、全てを飲み込んでしまう森。ジャングルという感じではなくて少し静かな、閉ざされている空間だったし、或いは発電所的な森とはそういうものなのかもしれない。

 夕方が来るのを待っていた。いや、僕には目的なんてなかったし、もっと言うと過去もなかった。何もわからないままここにいる。一夜を明かすには少し悪い環境で、生活なんてできそうにないけれどここからどこに行けばいいかもわからない。思えば動物を見ていない。カモメが飛んでいたけれど、あれは空が見せた幻のようだった。幻のカモメ、神話のカモメ、ゼウスに怒られて星座になっていくカモメ。悲劇の主人公のように一人ぼっちだった。僕も一人で、発電所も一人だ。煙を上げ続けている。遠くを見た。遠くから船が来るわけでもない。飛行機も飛んでこないし、森を走り回るインディ・ジョーンズのバギーもない。僕は冗談が下手だ。それを思い出した。

 人の気配はない。この空間は人工物が支配しているのに人の気配がないのも不思議だったけれど、そういうものかもしれない。意思を持ってしまうほどに、そう錯覚するほどに建物は大きく、そこまで行ったらあの巨大さに取り込まれてしまうだろうなと思った。ある種の美しさがあった。それは空のようで海のようであり森のようであった。つまりは女のようにみえた。

 僕はといえばどこまでも高台的で、荒野のようだ。何もない。

 


 ここまで書いた。これは一体なんだ?叙述、描写、スケッチ?一体なんなんだ。

 偉大な作家が書く一体なんなんだ?っていう作品はそこから立ち上がる匂いというか雰囲気というか威圧感みたいなものがあるけどこれにはない。

 自虐をしてしまった。自虐もやめようと思った。

 


 気づいたら夕日がこちらを照らしていた。発電所の巨大な長い影が森に寝そべっている。

 逆光で見えないが何羽もの鳥が空を飛んでいるのが見える。ガーガーとうるさい声を上げてV字の編隊を作りながら海の穂から飛んでくる。逆光の影になってよく見えないが白い色で、クチバシが大きく羽ばたきがバタバタとしているのが見える。優雅とはいえない飛び方だった。僕は嫌いではなかった。

 海の方から風が吹いてくる。強い風が髪の毛をバサバサと波立たせている。砂が舞う。乾いた砂だ。刺すような痛みが肌にぶつかる。潮の匂いがここまでようやく届いてきた。どこか人工物のようだった海が少しだけリアルに見えた。

 鳥が近づいてくる。僕は逃げたくなった。徒党を組んで近づく鳥、かないっこない。喧嘩になんてならないけど、なんだか発電所を見ていると自分が食べられてしまうような気がする。柔らかい砂浜の砂が羨ましい。ここの地面は固くてトゲトゲしていて、肌を破ってしまいそうだ。僕は心配をする性質だった。肌を破ってしまいそうだから座れない。穴も掘れない。どこにも行けない。嘘だ。どこにだって行けるのだ。海には空にも森にも発電所にも。高台を降りることもできるだろう。

 僕は振り返るえる。長い長い坂が見える。なだらかな坂だった。遠くに巨大な明かりが見えた。赤や緑の明かり、そして真っ白の明かり。蛍光灯の色とLEDの色が全体的な明かりになって夜を照らしていた。そこはもう夜だった。都会があった。都会は夜が来るのが早いのだと思う。都会に住むものたちがそうなるよう望んでいるのだ。

 なめらかなコンクリートと電線とに満たされた都市の影の中に僕は身を埋めてしまいたかった。砂浜なんて羨ましくなかったしこんな高台にはもういたくない。

 いつ産まれてどこからきたのだろうか。自分への問いを続けている。頭の中が平行して稼働している。機械みたいだったし僕は馬鹿だったz

 遠くへなんて行けないと思う。カモメが迫ってくる。あの鳥はカモメだったのだ。神聖な、神の使いとして、何かを届けてくる。その代償に僕は食われる。カモメが何を食べるか知らない。こんな思考が一瞬で全て浮かんだ。パパパと、蛍光灯がつくように。教室の蛍光灯が順番についていくような感じだ。教室というモノを知ってる。僕はそれを知ってる。でも何も嬉しくなんてない。

 足は動かなかった。いつまでも足は動かないと知っている。僕はここで終わりたくないと思っている。でもその根本はめんどくさくて動きたくないというのもわかってる。転んだら痛いし、恥ずかしいい。なにせ発電所が見ているのだ。あいつは知識を持っていて、馬鹿な僕を笑ってる。砂浜は優しい。優しく包み込んでくれる。それだって何か馬鹿にされてるような気配すら感じている。